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マンション生活やその他諸々

マンション管理における戦略的アウトソーシング

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マンション生活の魅力というのは、各専有部分の生活空間にあるのは勿論であるが、清掃や快適な施設といった共用部分の管理も含めたマンション管理サービスにもあるというのは間違いないだろう。
 マンション管理というサービスを提供する主体は管理組合だが、様々な理由(コストダウン、専門性、人材等)により、ほとんどのマンションにおいて管理会社等に外部委託(アウトソーシング)しているのが実情である。そのアウトソーシングのやり方、形態について考察する。

アウトソーシングとは

 アウトソーシングが頻繁に行われているのが、例えば各企業におけるIT関連業務だろう。技術革新が著しく、人材育成等も必要なIT関連業務をアウトソーシングすることで、本来業務に注力出来るだけでなく、サービスの質の向上にもつながる。
 アウトソーシングとはそもそもなんだろうか。慶応大学の花田教授が提唱しているのが、冒頭の図のアウトソーシング類型である。ここでいうアウトソーシングとは、専門知識やノウハウを持つ外部事業者に業務の設計企画から運営までをまとめて委託することをいい、業務の設計企画を内部に留保する外注とは区別される。
 多くのマンションにおいては、管理業務をまとめて外部の管理会社にアウトソーシングしており、この段階的変化について詳しく見ていく。

清掃業務の単なる発注から、マンション総合管理(アウトソーシング)へ

 マンションの歴史において、戦後初期の段階では、マンションの管理組合が外部に委託していたのは、共用部分の清掃であり、いわゆる外注であった。
 やがて区分所有法等が整備され、マンション管理の主体が問題になると、会計から建物管理等まで一括して管理会社に委託するようになり、マンション管理のアウトソーシングの歴史が始まることとなる。

アウトソーシングの発展的段階

 花田教授によると、アウトソーシングは次の4段階で考えられるという。
 まず第一段階がコストダウン型アウトソーシング。プロセスの効率化、コストの削減を目的とした業務の外部化であり、上記の清掃業務の外注なども広い意味で該当してくる。
 マンションにおいては、住民自身が様々な管理業務を行うよりも、管理会社等の外部のリソースを共用する形で行った方が、時間的にもコスト的にもメリットが得られる。
 ただ単なるコストダウン一辺倒では、管理会社はなかなか利益を上げる体質を構築することが出来ず、場合によってはサービスの手を抜く、あるいは住民に不必要なサービスや工事を勧めるなど、不適正に利益を確保するケースが出てくることも考えられる。
 そこで管理会社にとっても管理組合にとっても、このコストダウン中心のアウトソーシングから次の段階への発展が期待されるようになる。
 第二段階のアウトソーシングでは、単なる合理化を超え管理会社の専門性や技術力を積極的に活用し、その付加価値を管理組合の活動に加えるものである。見知らぬ者同士の住民のコミュニケーションや建物施設の維持管理などにおいては、管理組合の専門性や技術力が要求されるところである。ただ、実力の伴わなかったり不誠実な管理会社の場合、管理組合と利益が相反すること(不必要な工事を高い値段で受注など)をする可能性も出てくる。しっかりした能力や適性を持った管理会社を選ぶことが、管理組合にとって必要不可欠になる。
 そして第三次アウトソーシングであるが、これを花田教授はEソーシングと呼んでいる。第二次のアウトソーシングは、管理組合に付加価値をもたらすとはいっても、管理組合の本来業務を外部化しているにすぎない。ところが、もともとユーザーである管理組合になかったサービス、最近のケースでは各住居の家事代行やコンシェルジュサービスなど、を管理会社が新たに提案し、それを活用するのがこのEソーシングである。このEとは、外部資源を積極的に活用するといつExternalのE、その資源を管理組合内部で展開していくという意味でのExtendedのEなどから構成されている。この段階ねおいては、管理会社はさらにどのような新しいサービス・技術を提供し、アップグレードし続けられるかが必要になってくる。
 この次にくるのが第四次アウトソーシングである。現在において数千社ある管理会社が競争を繰り広げ、あるいは合併等を繰り返した結果、技術力やコンサルティング力が優れた一部の管理会社に与信力(ブランド)が生まれる可能性がある。つまり、その一流の管理会社が管理しているということで、当該マンションの資産価値が上がることが期待される。ここでは、与信・信用力としての力が管理会社に求められることになる。

管理会社の与信

 この段階においては、管理会社に求められるものとして、現状のサービス・技術だけでなく、常に新たな付加価値を付与し続け、マンションが将来においても価値を維持・向上していけるような将来の力、ポテンシャリティが重要となる。
 このポテンシャリティは、様々な対応の結果として出て来るが、優秀な人材の確保・育成がとりわけ重要な課題となってこよう。管理会社は3K的なメンテナンス中心のサービス業から脱皮し、価値創造の出来る人材を確保・育成する組織インフラを構築しなければならない。さらに言えば、こうした人材育成のインフラ自体が管理会社の与信の一部となりうるものである。新サービス・技術開発にどれだけ敏感であり予算と人材を投入しているか、外部情報へのアンテナを持っているかが新しいタイプの管理会社に求められるところであろう。

管理組合に求められるもの

 管理組合が管理会社と長期的あるいは短期的なパートナーシップを結ぶにあたり、その管理会社の能力を見極めることが非常に重要になってくる。
 まず、管理会社の現在の技術力、専門性、コンサルティング力、コミュニケーション力等を見極める必要がある。
 さらに次の段階にいくにあたり、管理会社が常に新しいサービス・技術を提供し、アップグレードし続けられる将来の力、ポテンシャリティを見極める必要が出て来る。

資産価値の向上とアウトソーシング

 このようなアウトソーシングの進展を支える社会的・経済的変化も徐々に生じてきている。
 まず、以前はとりあえずの住居だったマンション住居の永住意識が高まっていること。さらに、不動産におけるフローからストック重視へと変わってきていること。
 いずれもマンション管理の重要性が高まったことを示唆しており、さらにはマンションの資産価値の維持・向上といったこととも関連している。
 つまりは、マンション管理の概念自体がメンテナンス中心のものから、マンションの資産価値の維持・向上のためのものへと変化しているということである。マンション管理の第一次アウトソーシングはメンテナンス中心の展開であったが、第二次アウトソーシング以降は、むしろマンションの資産価値の維持・向上に焦点を絞ったパラダイムシフトともいえるだろう。


参考文献: 戦略的アウトソーシングの意義と役割   慶応大学教授 花田光