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本当に問題にすべきなのは、平均的な大卒者と平均的な高卒者の格差だ

ピケティがアメリカと日本で人気なようです。アメリカの格差論議でよく見られる誤解は、最富裕層の1%とその他99%のギャップが格差問題のすべてであるかのような認識で、ピケティ人気もこれによったようなもんでしょう。

 

年収は「住むところ」で決まる  雇用とイノベーションの都市経済学

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 アメリカの格差問題の本質(P.293)

アメリカの格差問題の本質は、マンハッタンの一等地にペントハウスを持っているような大富豪と、それ以外の大多数の人たちの間のギャップではないのだ。すべてのCEOと金融関係者を除外してアメリカの格差の大きさを計算したとしても、数字はほとんど変わらない。

本当に問題にすべきなのは、平均的な大卒者と平均的な高卒者の格差だ。

普通に仕事に就き、家族をもち、住宅ローンを支払っているような普通の人たちの間で、所得の格差が広がっているのである。

4500万人の大卒労働者と8000万人の高卒労働者の間のギャップが急速に拡大している。

賃金格差の拡大を生んだ主たる要因が意図的な経済政策だというのも、よくある誤解だ。

賃金格差が拡大している背景には、もっと根深い構造的な要因が働いている。近年の膨大な量の研究によれば、賃金格差の拡大は、労働力の需要と供給の変化が原因だと考えるのが最も理にかなっているようだ。具体的にいうと、大卒の働き手に対する需要が増える一方で、そうした働き手の供給ペースが減速しているために、大卒者の賃金が押し上げられているのである。

大卒の供給ペースが減速している理由

 ➀大学進学のコストが非常に高くなっており(平均10.2万ドル)、学費を払えない貧困家庭が増えている。

 ➁教育レベルごとに居住地が分かれ始めており、この傾向は子どもたちの教育レベルに悪影響を及ぼしている。(社会的相乗効果)

 ➂アメリカの高校中退者の急増、大卒者の適切な技能の低下→アメリカの教育レベルの低下

 

では、どうすればよいか?

 ➀教育の質を劇的に向上させ(特に高校の数学と科学)、大学に進む若者の数を増やす。 

 ➁高技能の移民を今以上に受け入れて人的資本を輸入すること。

 

衰退する日本(P.313)

1980年代、日本のハイテク産業は世界の市場を制していたが、この20年ほどでかなり勢いを失ってしまった。とくに、ソフトウェアとインターネット関連ビジネス分野の退潮が目立つ。運命が暗転した理由はいくつかあるが、大きな要因の一つは、アメリカに比べてソフトウェアエンジニアの人材の層が薄かったことだ。アメリカが世界の国々から最高レベルのソフトウェアエンジニアを引き寄せてきたのと異なり、日本では法的・文化的・言語的障害により、外国からの人的資本の流入が妨げられてきた。その結果、日本はいくつかの成長著しいハイテク産業で世界のトップから滑り落ちてしまった。専門的職種の労働市場の厚みは、その土地のイノベーション産業の運命を決定づける要因の一つなのである。

 

著者のモレッティ教授について(解説 P.328)

イタリア出身の経済学者で、同国トップの経済学部を擁する名門ボッコーニ大学を1993年に卒業してから、アメリカへ大学院留学。2000年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で教鞭をとった後、母校のバークレー校に戻り、現在は同校で教授を務めている。現実のデータを用いた実証研究のスペシャリストで、経済学会を代表する若手注目株の一人だ。教育や人的資本の蓄積が生産性や犯罪などに与える影響を明らかにした一連の研究で、専門家の間ではつとに有名である。いま、乗りに乗っている気鋭の経済学者だ。

 

(オカヨ解説)このモレッティ教授は、上に解説にあるようにピケティとほぼ同年代の経済学者で、業績的にも新進気鋭で注目されているところも共通点です。ピケティの本も、実証研究が中心ということで、二人とも似た部分があるようですが、結論としてはだいぶ違います。モレッティの方が通説に沿った妥当な結論となっているのに対し、ピケティの方は時流に反したかなり異端的な結論となっています。

まあ、二人とも格差問題に対して決定的な打開策を打ち出せていないことは事実で、この格差は広がっていくことは間違いないでしょう。もちろん、日本においても。